話しの種のテーブル  
No.57  
電子顕微鏡シリーズ 14
色のない色(1)ーチョウの構造色
浅間 茂
 私たちが見えている色は大きく二つに分けられる。色素による色と形がつくる構造色である。全ての光を反射(乱反射)すれば白く見えるし、吸収すれば黒く見える。葉が緑色に見えるのは緑色の光を吸収せずに反射しているからである。緑色の光の波長は540nm(ナノメートル)である。私たちが見える色は、400〜800nm程度である。波長が700nm前後だと赤く見え、470nm前後だと青く見える。シャボン玉は太陽の光を受けて、きらびやかな様々な色をかもし出す。シャボン玉に光が当たると、膜の表面で反射する光と、膜の底で反射する光が干渉して目に届くからである。またシャボン玉は重力により、下の膜が厚くなっている。見る角度と膜の厚さの違いにより干渉の条件が異なるため、様々な色をつくり出す。CDやDVDの表面に見られる虹のような色彩もミクロな構造によって、干渉と回折により作り出される。このように光の波長やそれ以下の微細な構造による光の干渉、屈折、回折、散乱などにより、発色する色を構造色という。
 この構造色は鳥や昆虫、クモなどいろいろな動物に見ることができる。昆虫の中でも、特にチョウではいろいろなパターンの構造色が知られている。「生きている宝石」と呼ばれているモルフォチョウは、中南米に約80種類生息している大型のチョウである。ほとんどのモルフォチョウの雄は翅の全体が輝く青色をしている。しかし見る角度をかえると紫色や黒色に変わってしまう。チョウの鱗粉一つ一つに細かい筋(リッジ)が並んでおり、切ってその断面を見ると、横方向の突起がやや斜めに棚のよう重なっている(ラメラー薄膜型)。この一つ一つの棚で反射した光が干渉して、金属光沢の青色に見える。日本にも構造色を持つチョウは多い。シジミチョウの仲間やオオムラサキ・コムラサキ・リュウキュウムラサキ・ツマムラサキマダラなどを電顕で観察した。構造色を発色する仕組みは様々である。シジミチョウの仲間は筋と筋の間の凹みの膜にある無数の穴による(チンダルブルー型・薄膜ラメラ型)。オオムラサキなどのタテハチョウ科はモルフォチョウと同じ型であるが、棚の構造が未発達である。
アエガルモルフォチョウ アエガルモルフォチョウのラメラー薄膜型
ミドリシジミの薄膜ラメラ型 ツバメシジミのチンダルブルー型

No.58  
電子顕微鏡シリーズ 15
色のない色(2)ークモの構造色
浅間 茂
 日本には約1,400種類のクモが生息しているが、大半のクモは色素によるもので構造色を持つクモはそう多くない。今まで知る限りハエトリグモ類である。ハエトリグモは眼が良く、雄は雌に対して求愛ダンスを踊る。構造色は求愛に関わっているのだろう。海外の報告であるが、ある種の雄のハエトリグモは我々の目に見えない紫外線を反射しているという。構造色を持つハエトリグモはアオオビハエトリ、ウデブトハエトリ、チャイロアサヒハエトリ、キアシハエトリなどである。熱帯地方では金属光沢のあるハエトリグモが見られ、捕食者から免れるために利用されている可能性がある。クモの構造色については、まだアオオビハエトリ(荒川真子)とウデブトハエトリ(浅間茂)しか報告されていない。チョウは鱗粉であったが、クモは体に生えている毛の構造によって構造色をつくり出している。どんな微細構造を持っているのだろうか。
 アオオビハエトリはアリの多くいる場所に見られ、アリを捕食する小さなカラフルなクモである。名前の通り頭胸部の周りに青い毛が生えている。顕微鏡のライトの当て方や液浸により色が変わることから、明らかに構造色である。断面構造を見ると、袋状の中に格子状の構造を持っている。荒川によると、毛の表面の膜と内側の格子による二層構造による干渉効果によって毛の色が生じるという。
 標本瓶を整理していた時に、アルコールが飛びカラカラになったウデブトハエトリが出てきた。頭胸部の毛は金色をしている。液浸したら色が消失する。このウデブトハエトリの金色も構造色である。アオオビハエトリと同様に格子状構造を持つが、格子構造は一層でありアオオビハエトリのように重なっていない。
 ハエトリグモの脱皮殻には構造色は見られないが、タランチュラの脱皮殻には構造色が見られるという。毛の脱皮方法が異なるのだろうか。網を張るクモは眼があまりよくなく、匂い(フェロモン)や糸により求愛相手を見つけるものが多い。一方、徘徊性のクモは比較的眼がよく、雌に対して求愛ダンスをするものもいる。構造色を利用しているクモは、気をつけてみるともっと多く生息していると思われる。
アオオビハエトリ アオオビハエトリ:毛の断面
ウデブトハエトリ:金色の毛 ウデブトハエトリ:毛の断面

No.62  
電子顕微鏡シリーズ 16
色のない色(3)ー鳥の構造色
浅間 茂
 鳥の羽の色は様々である。特に雄にきらびやかな物が多い。雌にアピールして選んで貰うために雄は地味な色の雌に対して、艶やかな色になっていった。当然捕食者に対しては危険度は増すが、子孫を残すためにはやむを得ない選択肢のひとつであったのだろう。鳥の羽の色は他にも紫外線から身を守ることもある。鳥の持つ色素は、ほ乳類と同じメラニン色素だけである。ほ乳類に比べよりカラフルな色を示すのは、餌の色素を羽に貯めることと、構造色による。多くの構造色は小羽枝の表面のケラチン層によって起こるとされ、さらに裏打ちしているメラニン色素により、反射されなかった光を吸収し、色を強調していたり、メラニン顆粒そのものが構造色の原因となっていることもある。今までハトタイプ、クジャクタイプ、カワセミタイプが報告されている(2007.吉岡伸也)
 ドバトの首の部分は、光線により色が変化する。ハトタイプは小羽枝の外皮がシャボン玉と同じ、薄膜干渉を起こすことによる。
 クジャクタイプは小さな粒の配列による。さらに反射されなかった光を顆粒に含まれている色素が吸収し、色を強調することで艶やかさが増す。クジャク、マガモなど鳥の種類により、この小さな粒の形や配列の仕方が異なっている。
カワセミタイプは、青い羽根を持つカワセミやカケス、ルリビタキで、細かい網目が青色を作り出していると考えられている。
 今までカケス、カワセミ、キジ、キンバト、コガモ、マガモなど身近な鳥の構造色を電子顕微鏡で見てきたが、熱帯林ではより鮮やかな鳥が見られる。今年の8月にボルネオのキナバル国立公園で動物局の鳥の標本を見せて貰ったが、ルリコノハドリの青色、タイヨウチョウの仲間の様々な金属光沢色、キヌバネドリのオレンジ色は構造色によるものである。ハミングバード、キヌバネドリなどの、先に述べたタイプの別の仕組みによる構造色の報告もある。世界には多くの種類の鳥が生息している。カラスの黒い羽も光加減によって色が変わる。もっと様々なタイプの構造色の報告が増えていくと思われる。
クジャクの羽 クジャクの小羽枝の細長い粒
カワセミの羽 カワセミ羽枝の微細構造

No.64  
電子顕微鏡シリーズ 17
遺伝学に寄与ーキイロショウジョウバエ
浅間 茂
 発酵しかけた果物に集まってくる小さなハエ、それがショウジョウバエである。ショウジョウバエは日本では270種類近くが記録されている。
  生物実験材料として使われるショウジョウバエは、キイロショウジョウバエやクロショウジョウバエである。高校で生物の遺伝実験材料としてキイロショウジョウバエを飼育して、30年以上になる。野生型(+)といろいろな突然変異体の遺伝形質のもの、眼に変異:白眼(white)、鮮紅眼色(vermilion)、細眼(Bar)、褐色眼(brown)、セピア眼(sepia)、 体色に変異:黄体色(yellow)、黒体色(black)、黒たん体色(ebony) 翅に変異:短翅(miniature)、そり翅(curved)、わん曲翅(Curly)、痕跡翅(vestigial)を飼育してきた。一年生の三学期に、4人を一班として突然変異体の掛け合わせ(両親P)を決めさせて飼育する。子供(F1)が生まれたら、形質と性比を数えた後、一人ずつの飼育瓶に分ける。その子供(F2)が生まれたら、形質と性比を数えデータ表に書き込む。全てのデータ結果を元に考察し、レポートにまとめる。大変な作業であるがこれで理論と実践が結びつくし、はじめは叫び声をあげたりしていたのが、日々の観察を通してほぼ全員が生きているハエに親しみを持つようになる。
 ハエの雄と雌の違いは慣れると肉眼でもすぐに分かるようになる。雄は腹部の末端が黒いし、雌は腹部が膨らんでいる。虫メガネや双眼実体顕微鏡で見ると、雄の生殖器が複雑な構造になっており、前脚のフセツ(先端部の5個に分かれた節)に性櫛(sex-comb、くし状の毛の列)がある。この性櫛はキイロショウジョウバエに近いグループの雄のみに見られる特徴である。雄が雌の腹部や外雌器をつかんだり、交尾の前に翅を広げさせるために使用されている。種により形態が異なる性櫛は、性選択と進化の研究テーマとなっている。
 眼の突然変異体である細眼は、野生型に比べ写真のように個眼数が少なくなっている。野生型雄では約740、雌では780個であるが、それぞれ90個、70個くらいに減少する。白眼は野生型と同じ個眼数であるが、眼に色素がなく白色である。
 ショウジョウバエの形質発現に関わるホメオティック遺伝子(各体節を器官に分化させる遺伝子)は、脊椎動物と共通性があるなど、遺伝学に寄与してきたショウジョウバエは、発生の研究材料として再び脚光を浴びている。
野生型 性  櫛
野生型の眼 細  眼

No.66  
電子顕微鏡シリーズ 18
金平糖のような刺−キク科の花粉
浅間 茂

 キク科は双子葉の中で最も進化した植物といわれており、世界で約2万種、日本でも約350種が知られている。頭花は筒状花だけ、あるいは筒状花と舌状花からなり、乳管があり切ると乳液が出るキク亜科と、頭花は舌状花だけからなり、茎や葉に乳管があり、切ると乳液が出るタンポポ亜科に分かれる。花粉もキク亜科とタンポポ亜科では異なり、外皮の模様(彫紋)では、キク亜科は刺がはえており、タンポポ亜科はさらに畝が発達し網目構造となっている。キク亜科では刺が花粉全域に見られる。刺の形は種によって異なり、丸みを帯びたり、尖っているものがある。刺やその周辺では小孔が見られる。タンポポ亜科のタンポポは畝の上に刺が並んでいる。刺は古い形質と考えられているが、タンポポは再び刺を発達させたと考えられている。虫媒花にとって、刺は花にくる昆虫にくっ付きやすくしているのだろう。キク科の花粉の大きさは、ほぼ15〜30μmである。
 花粉は一個の細胞ではない。花粉母細胞が減数分裂して、花粉粒になると、花粉は2個の核を持つようになる。花粉管核と生殖核である。キク科の花粉はさらに核分裂が進み、3核となっている。花粉管核と2個の精核である。一個の大きな栄養細胞に、小さな2個の精細胞が入れ子になっている状態である。水を吸った花粉は花粉管を伸ばすが、その花粉管を外に出すために、花粉の外皮につくられている孔が、発芽口である。発芽口が丸か楕円の場合は孔型(発芽孔)、細長くなっている場合は溝型(発芽溝)という。キク科は発芽溝が3つのものが多い。オオブタクサを見ると、発芽溝の中に発芽孔が見られる。キク科は全てこのように、発芽溝の中に発芽孔が組み込まれている。タンポポやアキノキリンソウではその発芽孔を、大きな丸い蓋(口蓋)が被っている。
 キク科の多くは虫媒花であるが、風媒花であるヨモギ、ブタクサ、オオブタクサなどは花粉症を引き起こしている。単為生殖をするシロバナタンポポやセイヨウタンポポなどは形態が異なる異形花粉を生じる。大きさも様々である。カントウタンポポとセイヨウタンポポの雑種が広がっていると報告されているが、セイヨウタンポポの花粉のあるものは、受粉能力があり、雑種が生じたのだろう。

セイヨウタンポポの異形花粉 カントウタンポポ
花粉症の原因となるオオブタクサ アキノキリンソウの三つの発芽溝

No.68  
電子顕微鏡シリーズ 19
六角形の謎−ハニカム構造
浅間 茂

 電子顕微鏡で昆虫の複眼を見ると、六角形がびっしりと並んでいる。
 自然界で六角形の形で思い浮かべるのは、ハチの巣、カメの甲羅模様、雪の結晶などである。ハチの巣をHoneycombといい、このように正六角形、正六角柱を隙間なく並べた構造をハニカム構造という。ミツバチの巣は、幼虫を育てる場所である。限られた空間を隙間を少なくして育てるには、六角形が最も効率よいのである。幼虫は弾丸型をしているので、三角形や四角形では窮屈になるし、丸や八角形では巣に隙間ができる。この六角形の筒は、最も材料が少なく広い空間を確保でき、蜜を貯めたりするのに、軽くて丈夫な構造となる。このように最小限の材料で、最大限の空間をつくる構造が、ハニカム構造である。
 カメの甲羅模様も基本的にはハニカム構造である。甲羅とは脊骨(椎骨)と肋骨がくっついて一枚の板状になったもの(骨板)と、鱗が変化した板(甲板)が重なってできている。背中の甲羅(背甲)の真上の3枚の甲板(椎甲板)は、きれいな六角形をしている。骨板と甲板のつなぎ目はそれぞれずれていて、重なることはない。さらに甲羅はドーム型をしており、外部からの圧力に対して、強い強度と力の分散を保っている。成長と共に甲羅が大きくなるので、イシガメやクサガメは木の年輪と同様に、甲板の年輪から年齢を知ることができる。動物界で最も頑丈な甲羅という防御システムを得たカメは、代わりに運動性を失った。スッポンやオサガメのように完全に水生や海生のカメは、泳ぐことに適応するため甲板が退化してなくなっておリ、ドーム型をしていない。
 多くの昆虫の複眼は六角形をしているが、昆虫によっては五角形など微妙にいろいろな形や、丸っぽい中間的な形が混じっていたりする。アブラムシのように丸い個眼の場合もある。エビの中には、イセエビやアメリカザリガニのように四角形のものもいる。一万個の個眼で構成されている複眼は、デジタルカメラのセンサーであるCCDの一万画素に相当すると考えられている。ショウジョウバエは760個、オニヤンマは約3万個といわれており、それぞれは760画素、3万画素となる。個眼の数を、一定の眼の丸い形の中で最大限にするには、六角形が最も適していることになる。

ミツバチの巣 イシガメ
オニヤンマの複眼 ソラマメアブラムシの複眼

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